跡部の家柄が凄いことは普段の生活でもわかっていたけれど。

 こう見せられると言葉すら出てこない。





           ―・婚約の利用・後・―







 跡部の家に着いた私はたくさんのメイドさんに迎えられ、その中でも年配の穏やかな雰囲気のメイドさんに連れられて一つの部屋にいた。

 跡部の家はとりあえず大きい。

 全てを把握するのはかなり時間がかかるぐらい。

 そして私が通された部屋はとても大きなクローゼットのある部屋。



 「お嬢様ですね、景吾坊ちゃまからお聞きしています。貴方の様に美しい方でしたらきっと旦那様も気に入ってくださいますよ」

 にっこり笑いかけてくれるそのメイドさんは何故か安心感をくれた。

 
 「あの・・・・私今の状況が良く分かってないんですけれど」

 跡部に聞いても何も答えてくれない。

 家に着いたら別々に別れてしまったし。



 「やはりそうだったんですね。実は今日は景吾坊ちゃまの婚約パーティが行われるんです」

 「婚約・・?」

 「まぁ・・・その政略結婚ですね。だけど景吾坊ちゃまがその相手を一目見て振ったんですよ」


 ・・・なんていうか跡部らしい。

 まぁ誰だって政略結婚なんて好まないわよね。


 「ただ婚約パーティーがあることを財閥世界で広まっていまして仮の婚約パーティーを行うと旦那様が決めたんです」

 「旦那様って景吾さんのお父様ですか?」

 「はい、景吾坊ちゃまも旦那様の言うことは従いますので。それで旦那様が景吾坊ちゃまに相手は景吾坊ちゃまが決めてよろしいと申したんです。」


 あの跡部も父親には逆らわないのね。

 というよりその相手って・・・。


 「それでそのお相手と言って連れて来られたのがお嬢様です」

 「・・・そうなんですか、ありがとうございます」


 












 





 「・・・・・・」

 ドレスに着替えさせられた私は跡部の部屋に通された。

 そんな私を跡部はじっと観察するように見つめている。


 「とてもお似合いですよね、景吾坊ちゃま」

 「あぁ」

 「それでは失礼致します」


 そう言ってメイドさんたちは出て行った。

 部屋には私と跡部だけ。



 「・・・・どういうつもり?」

 
 軽くため息をついいて私は跡部を見る。

 「聞いたんだろ」

 「ええ。まぁ構わないけれどどうして私なのよ」


 跡部なら他にもつれて来れる女の子はたくさんいるはず。



 「面倒だろ、他の女は。こんな事で自惚れられたら困るからな」

 「もし私が自惚れたらどうするのよ」

 「そんなつまらねぇ女じゃねぇだろ」

 
 本当に溜息が出る。

 そんな時扉をノックする音がした。


 「はい」


 跡部がさっきとは違う固い声で答える。


 「景吾、入るぞ」


 その声は低くてどこか跡部に似ていてすぐに跡部の父親だと分かった。


 やっぱり入ってきたのは跡部と同じように整った顔の男の人。

 跡部と同じ瞳にまた目を捕らわれそうになる。

 
 「もういい」

 そう言って跡部の父親らしい人は一緒にいたメイドさんを帰した。


 扉が閉まると跡部も、その人も固かった雰囲気が解けた。

 私は何も変わらなかったけれど。




 「もう仕事終わったのか」

 跡部がその人に言う。

 「あぁ、お前が本当に女を連れてきたと聞いてな」

 「ったく、跡部家の社長が聞いてあきれるぜ」


 ・・・本当にこの人父親かしら?

 メイドさんの話し方的に跡部は父親には逆らわないような雰囲気だったけど。


 そんなことを思っていた私にその人が目を向けてきた。



 「初めまして。景吾の父親です」

 「初めまして。と申します」


 きちんと礼をしてもう一度その人を見る。

 やっぱり跡部に似ている―――。

 容姿もそうだけど、雰囲気が。


 そしてやっぱり私のことをあの目でじっと見つめていた。

 ふと目が合うと跡部のお父さんは笑顔を浮かべて


 「そう固くなるなよ」


 とさっきとは全然違う声と話し方で言った。




 「安心しろよ、親父は他の連中らみたいな奴じゃない」


 そんな事いわれても・・・。

 警戒するなって言う方が無理じゃない。


 「まぁ警戒するなって方が無理だろう」


 ・・・やっぱり跡部の父親だ。




 「・・・どうして婚約パーティーなんてするのかしら?そこら辺が他と変わりないんじゃない」


 自分の地位を守るために嘘でも婚約パーティーをすると聞いたときから跡部の父親のことを他の人たちと同じだと思った。


 
 「そりゃ景吾がどんな子を連れてくるか楽しみになるだろう」


 だからこの言葉にちょっと驚いて溜息・・・苦笑ができた。


 「まぁ私にとっても多大な迷惑なだけなのだけれど」

 「何、気にすることは無い。どうせ出てもらわないから」


 「「え?」」


 私と跡部が見事に二重った。


 「体調不良とでも言えばいいだろう。俺がと会えただけで十分だしな」


 ・・・・・軽い目眩を起こしそうだ。

 「お前ら部活あるんだろう。どうせもう終わってるだろうがクラブメートが家の周りをウロウロしてるらしいからさっさと行けよ」


 その瞬間岳人が大声で叫びながら侑士がそれをとめてジローを宍戸が引っ張ってそれを笑いながら見ている長太郎が想像できた私はどこか悲しい・・。

 
 「なら後は頼むぜ」

 跡部がそう言って立ち上がった。

 跡部の父親も了解したように立ち上がる。


 私は今日何度目か分からない溜息をついて口を開いた。


 「今日学んだ事といえば跡部の身勝手さは血筋ってことね」



 














――――――――――――――――――――――――――




 私は制服に着替えなおして跡部と一緒に裏門から外に出た。

 すると即後ろから聞きなれた叫び声がした。



 「跡部――――!!―――――!!」



 そこにいるのはいつものメンバー。

 

 「ちょっとは大人しくしぃ、岳人」

 「うるせぇ、岳人」

 「あれーみつかったの?」

 
 ふっと力が抜けるような気がした。

 跡部の家は何処か息苦しい物を感じていたから。




 「おかえりー

 岳人たちが騒いでる中ジローがゆっくり言ってくれた。

 「ただいま」

 不思議な感じはするけれど、違和感は覚えない。

 やっぱりここが一番居やすい場所。

 それを作ってくれるのは皆。


 それは跡部も同じようで。

 言葉では絶対いわないけれど。

 表情が物語っていた。
 


 









―――――――――――――――――――――――――( 景吾 )


 「なぁ跡部」


 あの後岳人が遊ぶと言い出して街に行ってゲーセンで遊んでいる岳人たちから少し離れたところで忍足が話し掛けてきた。


 「なんだよ」

 「綺麗やったやろ?」

 
 おれはこういうときの忍足が一番苦手だ。

 特に今日一日はコイツに遊ばれすぎた気がする。

 
 「・・・・」

 「無言は肯定と取るんやで」

 「勝手にしろ」


 



 確かにのあの姿は綺麗だった。

 学校でも確かに美人といえるがあの家にいても浮かない品の強さ。

 不思議な奴だ。


 まるでああいう経験があるような―――。




 ・・・・まさか、な。












 《 ・・・・か》














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―・あとがき・―
微妙なところで終わってますが婚約の利用はこれで一度終わりです。
最後の《 》の言葉はある人の言葉です。
またなぞが増えた(笑)
久々に書いたから前のと微妙に文章が違うかもしれないけれど気にしないでくださいね。





2004:05:23










 







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